月夜見

   “犬も食わない棒に当たる”

   *TVスペシャル、グランド・ジパング ルフィ親分シリーズより

 

  喧嘩っていうのはサ、
  両方のお互いが相手へ怒ってて
  顔も見たくねぇってくらい反発してないと
  成立しないもんなのかなァと。

意外な人から意外な話を振られてしまい、
ほえ?と つぶらな瞳をなお真ん丸く見開いてしまったのが。
そんな幼い風貌でありながら、
グランド・ジパングのご城下で
町の皆さんからすっかり頼りにされておいでの、
トナカイのお医者せんせえだったりし。

 「片方だけが腹が立ってるとか、
  片方だけが相手を気に入らないとか、
  そういうのは、単に気に食わないってだけの話で、
  喧嘩じゃあないのかなぁ。」

 「ちょ、ちょっと待ってよ、親分。」

いつものようにお昼ご飯を食べにと訪れた、一膳飯屋の“かざぐるま”。
療養所のお当番の関係で、お昼どきからは少し遅れた分、
お店も空いててゆっくり食べれたし。
日替わり定食の出し巻き玉子、焼き立てのを出してもらえたし。

 『おう、せんせえも食べるかい?』

餅が余ってんだと、
軽くあぶったのへ甘くて香ばしい きなこをまぶしたの、
サンジが おまけにって出してくれて。
お外はここのところずっと居座ってる寒波のせいで寒かったけれど、
お腹が膨れるとしやわせになれるという、
他でもない親分さんの座右の銘を実感していたところだったのに。
思わぬお人から、そんな意外なことを訊かれてしまい、

  えええええっ?!と、
  チョッパーせんせえ、驚いたの何の。

 “そういえば、何だか膨れてるなぁとは思ってたけど。”

先に来ていた親分さんは、でも、
今の今まで こちらへ声を掛けては来なかった。
もうご飯は終わってたらしいのに、
両方の肘を飯台につくと、ふわふかな頬っぺを両手でくるむようにして、
う〜んむ〜んって しきりと唸っておいでで。
でもでも それって、単に“寒い日が続くから”とか、
はたまた、親分さんのお仕事上のこととして、
捕り物へのお手配になってる悪党がなかなか捕まらないままだからとか。
そういう“困った”とか“憂鬱だなぁ”とかを抱えているからだと思ってた。
それが…そんな突拍子もないことを言い出したもんだから、

 「もしかして誰かと喧嘩しているの?」

ようよう磨かれた飯台の上へ手をついて、
身を乗り出すようにして向かい側にいる親分へと聞き返す。
だって、こちらの親分さんは、
いつだってそりゃあ明るい陽気なお人だ。
時々勢い余ってやりすぎちゃいもするけれど、
一生懸命なだけで悪気はないと判っているから。
ど〜んっと ぶつかられたり、家の塀に突っ込まれたりしても、
大概の人は“しょうがないなぁ”って笑ってしまうし。
助け起こしてもらったそのままのごめんなさいに
“いいよ いいよ”って苦笑をしちゃうだけだったり。
店先や塀を壊されたっても、
一緒に修理しつつ何だか楽しくなっちゃって。
結果、何だかよく判らないんだけど
楽しい一日だったねぇってことになっちゃうというから、
途轍もない“人徳”つきの、
ご陽気なばかりなお人だって思っていたんだにね。
そんなお人が、おへそを曲げての喧嘩することもあるなんて。
しかも、こんなに柄になくも考え込んでいるなんて。
謝りにくい相手なのかな、上役の人なのかなと、
小さな胸の内にて、
先んじてスタート切っていたチョッパーせんせえだったのへ、

 「…それがよく判らないんだよな。」
 「はい?」

何だそりゃ…とコケかかったものの、

 「〜〜〜。」
 「…親分?」

何とも煮え切らない言い方をするルフィだってのも、
日頃の快活で明けっ広げな彼と比すれば、
随分と珍しいことであり。

 「言い合いっこになったワケじゃなし、
  掴み合いの取っ組み合いをしたワケじゃなし。」

まだどこか子供っぽい作りの手を開き、
ひいふうと指を折って見せてから。
そのままぐうに握り込むと、

 「だから、ごめんて言うのも変な話だし、
  だいち(第一)俺は 全っ然悪くないんだしよ

 「はいぃ?」

そんな力説をする彼じゃああるが、
あれあれ?
それって何か 変じゃない?

 「…それって喧嘩なのか?」
 「だよなぁ。」

うんうんとそうだよなぁなんて
納得してしまう親分さんでもあったりするので。


  ?????





     ◇◇◇



何だったんだよ、あれってばと。
トナカイドクターが煙に撒かれた相談ごと。
涙目になりかけの幼いせんせえへ、

 『ほら、泣かないし怒らないの。』

かきもちをカラッと揚げたの、鉢へと盛ってどうぞと出しつつ、
サンジが苦笑し、ナミもお茶を入れ替えて差し上げる。

 『ありゃあ別に、困らせようという企みから、
  答えのないことを持ち出しての、
  管を巻いた訳でもないし、駄々を捏ねたわけでもないしな。』

 『そうなのか?』

サンジらも実は同じことを訊かれたクチだったようで。
親分さんには本当に、憤懣やる方なしな事情であり、
しかもその上、
どうやって収拾をつければいいのかが
ちいとも判らないのは間違いないと。
煙管にたばこを詰めつつ、
しょうがねぇよなぁなんて苦笑をこぼす板さんで。

 『まあ、慣れぬ考え 休むに似たりというか。』
 『それも言うなら“馬鹿の考え”でしょ? サンジくん。』

まったくもう、皆して親分へは甘いんだからと、
みかん色の髪した女将が、呆れたような声で突っ込んだものの。

 『ま、親分の馬鹿さ加減っていうのは、
  いつだって かわいらしい類のそれだしねぇ。』

行動の過激さや破天荒さと相殺されてるのかしらねぇなんて、
カラカラと笑って…やっぱり褒めてはないお言いようをしたナミさんもまた、

 『こんなところでぐるぐる考え込んでるより、
  ど〜んっと相手へぶつかった方が早いのよ、ああいうのは。』

 『???? ナミ?』

うんうんうんと感慨深げに頷いている板前さんといい、
大人二人の方は、どこかで何か、ようよう判ってるご様子で。


  ……………そうしてそして。
  知己の皆さんを混乱と困惑に引きずり込んだ
  当のご本人はといえば。


 「親分?」
 「うっさいな。俺りゃあまだ怒ってんだからな。」

ちょみっとお声が尖っているのは、
決して虚勢や作りごとなんかじゃあない。

 “年越しの晩からこっち、どこにも姿見せなくてよ。
  居たと思ったら、
  そそくさって足早になるわ、
  すぐにも角の先とかで見失うばっかだわで。”

   それって……それってサ。

 “避けられてるって思うじゃんかよっ

なので、あのね。
ほんの昨日のこと、
今度は逃げたりしなかった坊様だったのに、
それを“よかったぁ”なんてホッとするのが何か癪で。
そいでってのも何だけど、
今度はこっちがそそくさと、
視線を逸らして後戻りしたり脇道へ入ってったり。
そんな“知らんぷり”をしてやったらば、

 饅頭笠の縁をちょいと下げ、
 しょうがないなって
 立ち尽くすばかりの坊様だったもんだから。

それが何でだか、
却って堪えてしまった親分さんだったりしたワケで。

 「何かサ、俺ばっか悪いみたいじゃんかよ。
  俺がいじめてるみたいじゃんかよっ

 「いじめるって…何すか そりゃ。」

寒さから鼻の頭を真っ赤にし、
むうむうむうと、ふっかふかな頬をふくらませ。
大きに怒っております、不機嫌ですと、
つけつけ言いたい放題している、小さな親分さんであり。

  判ってるサ。
  お坊さんてのは
  節季の折々が稼ぎどきだったりするんだろうから

お仲間らしい黒装束のお人とか、
元いた藩の藩士様か、
お武家様ともこそこそ何かしら語らってたのも見かけたし。

  俺のはただ駄々捏ねてるだけ。
  独り相撲もいいトコだって。

でもなんか、引っ込みがつかなくなっちゃってサ。
そういうのは、
親分の側で“許してやれば”済むことだって、サンジが言ってたけど、

  だったとしても。

その切っ掛けっていうのがサ。
何かあのその、
難しいよななんて思えてしまって。
ウソップと喧嘩した時なんかによくあるのが、
滑稽なことをしたのへ笑ってほだされるっていうのだけれど。
それはあいにくと望めそうになかったし。

 “だってゾロってカッコよすぎんだもんな。///////”

だからって、こっちが謝んのも何か理屈がおかしいし。
どうしたらいいんだろうかって、
時々 冷たくって強い風がぴゅうひゅうと吹く中、
う〜んむ〜んと唸りつつ歩いてたらば、

  ぼそんって、頭っからぶつかったのが
  覚えのありすぎな懐ろの感触と、
  いかにも精悍な男臭い匂いだったもんだから。

頭の上から“今日も寒いっすねぇ”なんて
間の抜けた挨拶されたのをいいことに。
おうよと応じつつそのまま、暖かいところへともぐり込み。

 さ、寒いんだからしょうがねぇだろ、なんて。

ちょみっと偉そうな言いようでの言い訳しつつ。
堅いけれども居心地のいい、頼もしい胸板へ頬っぺをくっつけ、
はぁあ…なんて可愛い溜息ついてた親分さんだったそうでございます。

 “………う〜んと。//////”

親分の方が暖ったかいカッコしてんだけどもなとか。
何へか怒ってたらしいのは知ってたけど、もういいのかなとか。
墨染の僧衣姿の上へは ぼろ布が外套代わりという、
何とも寒々しいカッコだったお坊様の側にも、
いろいろと巡る想いもあったようですが、とりあえず。


  とんでもなく寒い日でよかったね。
  往来でこんな馬鹿やっても、
  そうそう見とがめる人はいないだろうから。(笑)







    〜Fine〜  13.02.09.


  *書き終えてから気がつきましたが、
   ウチでは初めてじゃなかろうか、ツンデレなルフィさんでしたね。
   下克上関係だからこそ為せる技でしょうか。(知らんて)
   人肌、もとえ、人恋しい季節ですから、
   不毛な喧嘩なんておよしなさいなと…。
   窘めるまでもなかったようですね、うんうん。(笑)
   もっと尺を取って、
   じりじりすれ違うところも書くべきでしょうが、
   長いこと座ってるのがまだ疲れるので、
   こういう代物ですいませんです。

   ちなみに、
   最初は“残夏〜”の二人で書こうと思ったネタだったのですが。
   (ウチの じれったい二人、現代版。)笑
   あっちの二人はまだ、
   こうまでこじれるほど接近してないだろうということで。


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